うつ病時代
遡る事10数年前。夫が亡くなり、仕事、家事、育児に明け暮れていた毎日。
ある日突然今まで出来ていた仕事ができなくなり、夜も眠れなくなって自分がうつ病だと診断されて、社会から追い出された感覚に孤独を感じている頃のお話です。
その頃私は1月の休職を経て、今までと同じ会社に復職することになりました。
診断書を持って、会社に行くと、みな腫物を扱うように私に接します。菓子折りを持っていって「今までお休みして申し訳ありませんでした。これから迷惑かけるかもしれませんが、よろしくお願いします。」とみなさんに挨拶して廻りました。ところが、ある年配の男性に「え!迷惑かける気?」と言われてしまいます。
返す言葉がありません
ダヤンとの出会い
その日は更に落ち込みながらも仕事を終え、車に乗り込んで帰ろうとすると、
車を通り過ぎた時、なぜかやけに気になって戻ってしまいました。「戻ってまだいたら、うちで飼おう!」そう決めて戻ると・・・いました。
もしかすると、自分と猫が重なってその猫を救えば自分も救われると思ったのかもしれません。
そのまま車に乗せてみると、とても人懐こい猫で、膝の上に乗ってきて鼻水を垂らしながらグルグルと喉を鳴らしています。名前はダヤンと呼ぶことにしました。
そのまま病院に連れていき、ノミ、ダニ駆除、風邪薬などいろいろ処置してもらいました。ゲージを買って、家に連れて帰り、餌をあげると、まるで自分の家のように安心して眠ります。
それからは、病気を治すことに集中して薬をあげたり、シャンプーをしてあげたり。早くこの子を治してあげたい。という思いから、夢中になって世話をしていました。
うつ病の事なんてすっかり忘れていたのです。
家に帰ると喜んで迎えてくれるダヤンを見たくて、仕事が早く終わらないかと待ち遠しい毎日でした。
ダヤン元気になったかな?
なかなか治らない病気
でも病気はいっこうに良くなりません。ある日の夜、なかなか薬を飲んでくれないダヤンが、生気のない、鈍い光を放っている眼で私の事をとても大事そうに見つめながら、
「ありがとう。でももういいよ。大丈夫。今までホントにありがとう。」そんな風に言っているようでした。なぜか不思議とストンと心の中に入ってきて今までの気持ちが一斉に凪いだような感覚でした。
それで・・・私は泣きながらゆっくりと薬を膝の上に置いて、ダヤンを抱きしめ、「もう私にこの子を救う事はできない。助けてあげられなくてごめんね。安らかに旅立てるように見守ろう。」そう決心するのでした。
ダヤン虹の橋へ旅たつ
それから数日後の夕方、私が仕事から帰るのを待っていたかのような姿で息を引き取っていました。
それを見て大泣きしている私に子供が「ダヤンはさ、最後にうちに来て幸せだったよ。」と慰めの言葉をかけます。
ダヤン幸せだった?
それが魔法の言葉のように私の心に深く染み渡って、凍っていた心が溢れ出る涙で溶けて暖かくなっていくのでした。
その後も随分と泣いていましたが、(今でも思い出すと泣きます)ダヤンを失った心の傷が回復すると同時に以前の自分よりも心穏やかに、楽に生きていけるようになりました。
私のうつ病をいやしてくれた猫だったのです。
ダヤン。今どうしてる?幸せですか?私のことを癒やしてくれてありがとう。今度は虹の橋の向こうで、元気いっぱい遊ぼうね。